【岡山県倉敷市様】せとうち3市で「ガバメントクラウド先行事業」に応募 稼働から1年が経過し安定稼働中
岡山県の南部に位置する倉敷市は、白壁の町並みが残る倉敷美観地区や、四国の香川県坂出市と本州とを結ぶ瀬戸大橋などで知られる、歴史と文化、自然が魅力の都市です。
行政の中心地であり、観光名所を数多く擁する倉敷を始め、重化学工業が盛んな水島、学生服やジーンズの生産で知られる児島、ぶどうの栽培が盛んな船穂・真備、古代吉備王国の港町として栄え、歴史的な街並みが残る玉島の各エリアから成ります。
市政のトピックスとしては、デジタル田園都市国家構想交付金を活用して令和5(2023)年12月15日に公式ポータルアプリをリリース。倉敷市からのお知らせ受信や、オンライン手続きが可能なほか、保育園や学校への保護者連絡用のアプリとの連携機能も備えています。
倉敷市のWebサイトより引用
倉敷市では、以前から基幹系業務システムのクラウド化に関する取り組みを進めてきました。平成30(2018)年には、当時事務局を務めていた中核市市長会の取り組みとして、「中核市における自治体クラウド実現に向けた研究会」の設置を提案し、取り組みの成果として「住民記録・印鑑登録システムについての調達仕様書のひな形」(のちに「住民記録システム標準仕様書」のたたき台として活用)を策定しました。
さらに、令和元(2019)年8月には、高松市・松山市とともに「3市研究会」を立ち上げ、令和2(2020)年10月には「せとうち3市(倉敷市・高松市・松山市)自治体クラウドの推進に係る協定書」を締結するなど、自治体クラウドを用いた住民記録システムの共同利用について検討を行ってきました。
令和3(2021)年7月には、高松市・松山市とともに「せとうち3市」として「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)」へ応募し、令和5(2023)年1月に、3市では最初に倉敷市がガバメントクラウド上で住記等システムと保健福祉総合システムの本稼働を開始しました。
今回は、ガバメントクラウドへの移行を成功させた経緯や具体的な流れなどについて、お話を伺いました。
- 人口:47万5,914人
- 世帯数:21万9,874世帯
【課題】現行のシステムが契約期限を迎える令和7(2025)年度末までにリフト&シフトを行う必要がある
川崎様:倉敷市の基幹系システムは、6社のベンダーが関わるマルチベンダーとなっています。現行のシステムは令和7(2025)年度末までに、それぞれ契約期限を迎えるため、それまでにリフト&シフトを行う予定になっています。なお、各システムは、業務担当課がシステムの管理や予算調達などを担っています。
平松様:一方、倉敷市は、平成30(2018)年に中核市市長会に設置された「中核市における自治体クラウド実現に向けた研究会」の事務局を務めていました。
同研究会では、「住民記録システム等導入及び保守業務調達仕様書のひな形」を作成。「このひな形を元に、実際の調達に向けた検討をしませんか?」との提案で、地理的に比較的近い位置にあった当市と高松市、松山市の3市で「3市研究会」をスタートしました。
3市研究会では、自治体クラウドを用いた住民記録システムの共同利用に関する検討を行いました。さらに、令和2(2020)年10月には「せとうち3市自治体クラウド推進協議会」を設立。実際の調達に向けた具体的な検討を進め、令和3(2021)年4月に住記・印鑑・選挙・年金システムの共同調達を実施し、令和4(2022)年9月に倉敷市で本稼働しました。
こうした背景の中で、タイミング良く、国からガバメントクラウドの先行事業の募集があり、令和3(2021)年5月に、3市として「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)」に応募しました。
これは、中核市3市が共同利用するシステムがガバメントクラウド上で安定稼働できれば、ほかの自治体が安心して移行できる判断材料になるのではないかと考えたためです。
また、ガバメントクラウド上の標準準拠システムへの移行期限が令和7(2025)年度末とされており、全国の自治体の移行作業が令和7年度に集中することが予想されました。そこで、早期に移行へ着手することで、比較的安定して移行ができること、また移行作業のノウハウが蓄積できるのではないかという期待もありました。
【導入】パブリッククラウドへの移行に際し、デジタル庁のリスクアセスメントに則って安全を確認
平松様:もともと、保健福祉総合システムでお付き合いのあったアイネスさんから、地方公共団体向け基幹業務システムとして「WebRings(ウェブリングス)」を開発中であるという話を聞いていました。そこで、保健福祉総合システムの移行は既存ベンダーであるアイネスさんへ依頼することを決めました。
住記システム等に関しては、3市での共同調達によるプロポーザル(企画競争入札)の結果、他社ベンダーへ決定しました。
ガバメントクラウドへ移行するということは、必然的にパブリッククラウドへ移行することになります。何も対策を取らなければ住民情報などを含む機微なデータを抱えたシステムがインターネットにつながってしまうため、当然ながら、何らかの対策が必要です。
これに関しては、アイネスさんらベンダーさんの協力を得ながら、デジタル庁が用意したセキュリティテンプレ―トやリスクアセスメントの適用を通して、問題なく安全かどうかを確認した上で、住民情報をデータ移行しました。
導入フローと、倉敷市側に発生した作業内容・期間
大まかな導入フローは、次の通りです。
(1)ガバメントクラウドとの回線接続、ガバメントクラウドアカウントの払い出し
(2)環境構築
(3)クラウド・回線の検証
(4)データのリフト(副本データ)
(5)上記データを用いたクラウド・回線の検証(レスポンステスト・システムテスト・運用テスト)
(6)本番移行
(7)運用
令和4(2022)年2月から、ガバメントクラウド上で業務システム環境の構築を開始し、同年7月から保健福祉総合情報システム機器を更新しました。具体的には、AWS上に、旧システム(オンプレのAPサーバー2台と、バッチサーバー1台)を移行。旧環境ではバッチサーバー上で動いていた連携機能は、新たに連携サーバーを置いて対応しました。データベースサーバーは、SQLサーバーをAWSのSQLサーバー(RDS.4)に移行しました。
この中で、回線接続時の作業や、システムの動作確認などのユーザーテスト、移行時の確認といった作業が発生し、作業期間は2ヵ月程度でした。
渡邉様:ユーザーテストも1~2ヵ月で済み、比較的スムーズでした。本来であれば、当市の担当者1名とアイネスさんの担当者1名が、それぞれ窓口となってやり取りするところを、複数のSEと直接やり取りできる体制を取ってくれたため、課題管理表の更新を含め、スムーズに進められたと感じています。
ただ、もともと使用していたWebRingsをそのまま移行しただけで、標準準拠システムに移行したわけではありませんので、テスト期間が短く済んだという側面もあります。
アプリケーションの移行と同時であれば、もっとテスト期間が必要になったでしょうから、これから標準準拠システムに移行することになる多くの自治体では、さらに長期間のテストが必要になるだろうと考えています。
テストの中で一部発生した、各処理を実際に流してみたら通常より遅かったり、連結したデータが出て来なかったりなどの不具合については、アイネスさんに原因究明と解消を行ってもらいました。
【運用】保健福祉行政の中核を担う総合システムとなっている
渡邉様:保健福祉総合システムは、本庁・保健所(6課)、支所(4課4室)において、さまざまな保健福祉業務に活用しており、本市の保健福祉行政の中核を担う総合システムとなっています。
システムの運用管理は、保健福祉推進課2名で行っており、アイネスさんとの調整等をさせていただいています。
各業務の中で発生した軽微な疑問点については、システム利用課から担当SEさんに直接連絡させていただき、調整後に保健福祉推進課から貴社ご担当者様に正式に対応を依頼しています。
【成果】ガバメントクラウド移行後も安定稼働
平松様:業務担当者からの感想などは特に届いていませんが、リフト後も以前と変わりなく利用できているのが答えだと思います。アプリケーションそのものは変わっておらず、置き場所が変わっただけなので、現場の職員に体感的な変化はありません。
システムの安定稼働ができるかがリフト前の懸念事項でした。ネットでAWSの障害情報などのニュースを見聞きしていたのですが、自治体のシステムが万が一停止してしまうと、住民サービスに大きな影響が出ます。
しかし、実際に移行し、稼働から1年が経過しましたが、AWSを起因とするシステム障害は起きていません。安定して稼働できていることを評価しています。
また、WebRingsでは従来からデータベースにSQLサーバーを利用していましたが、AWS上でもSQLサーバーを用いた構築が可能であったことから、比較的容易にデータ移行を行うことができました。こういった部分はアイネスさんへ依頼して良かったと思っています。
今回のガバメントクラウド先行事業では、従来のシステムをそのままリフトする計画であったため、データクレンジングが必要なく、上記のとおりSQLサーバーからSQLサーバーへの移行であったこともあり、非常に安全に移行ができました。
【展望】ガバメントクラウドの利用料金を中心とするコストダウンが今後の課題に
平松様:せとうち3市のガバメントクラウド先行事業のコストを分析したところ、EC2(AWSの機能)が7割近くを占めていることがわかりました。これは、従来のシステムをそのままガバメントクラウドへ移行したためだと思われます。ガバメントクラウドへの移行に際しては、単純移行ではなく、システムの「モダン化」(クラウドサービスを最大限活用した構成に見直した上での移行)が必要だと感じているところですが、令和7年度末までの標準化完了を目指している中、対応が難しいベンダーさんも多いのではないかと思います。
モダン化以外のコスト削減に向けた取り組みとしては、国においては、たとえばSP(セービング・プラン)やRI(リザーブド・インスタンス)、ボリューム・ディスカウントなどの導入に関する検討が進められています。
せとうち3市では、AWSのサポートプログラムであるCFM(クラウド・フィナンシャル・マネジメント)を活用し、コスト面からクラウドサービスの利用状況の見直しを検討しているところです。
なお、CFMの分析結果によると、アイネスさんのアカウントに関してはコスト削減余地が比較的少なかったのですが、これは、既にある程度の最適化がなされた構成になっているためではないかと感じています。
アイネスさんには、引き続き、クラウド利用料の削減に向けた取り組みの継続に期待しています。
「WebRings(ウェブリングス)」について、詳しくは下記のページをご覧ください。
WebRings(ウェブリングス)
また、下記のプレスリリースも併せてご覧ください。
WebRings福祉総合システムの標準化対応とガバメントクラウドへ対応強化について
より詳しい内容をお知りになりたい方は、以下よりお問い合わせください。