【鹿児島県農業共済組合様】カルテの作成や情報共有、データ入力業務を効率化!獣医師・業務職員両者の負担軽減を実現
天候や伝染病など、外的要因が利益や設備の損害を大きく左右する農業。
「農業共済組合(NOSAI)」では、自然災害による農作物の被害や、家畜の治療・死亡・廃用などが発生した際に、その損害額や診療費等の補填を行っています。
NOSAIは全国に団体を持ち、鹿児島県を管轄するのが「鹿児島県農業共済組合(NOSAIかごしま)」。鹿児島県は温暖な気候に恵まれており、全国上位の飼養頭数を誇る豚や肉用牛(黒毛和種)を中心とした畜産業が盛んです。
NOSAIかごしまでは、農業保険法に基づき国の農業災害対策の重要な柱である農業共済事業と、農業経営収入保険の受託事業を行っています。
農業共済事業では、「農作物共済」「家畜共済」「果樹共済」「畑作物共済」「園芸施設共済」「建物共済」「農機具損害共済」の7つの事業を実施しており、畜産業が盛んなことから事業規模の約8割を家畜共済が占めているといいます。
鹿児島県農業共済組合のWebサイトより引用
今回は、7つの事業のうち、「家畜共済」でご利用いただいている「電子カルテシステム(家畜共済向け)」について、導入ご担当者様と、実際に現場でシステムを利用されている獣医師様に、お話を伺いました。
【課題】
手書きによる紙カルテの運用で、作成に時間がかかっていた
組合員(農家)が家畜の診療費や死亡廃用に伴う補填を受けるには、獣医師による診療や診断が必要になります。年間のカルテ作成数は、約30万件にも上るといいます。
電子カルテシステムの導入以前は、獣医師が作成するカルテや診断書はすべて手書きによる紙ベースでした。このため、システムへのデータ入力が別途必要でした。さらに、診療点数の計算についても手計算で行っていました。
また、作成したカルテや診断書を、グループ診療を行う複数の獣医師間で効率よく共有する手段がなく、メモを渡して共有している状況でした。
Q. 電子カルテシステムの導入前に抱えていた課題について、教えてください。
羽牟様:家畜共済では、牛、馬などの家畜が病気やケガをしたときに、獣医師が治療を行います。こうした疾病傷害に関する診療費のほか、死亡廃用に伴う棚卸資産価値の減少部分を組合員である農家へ補填しています。
獣医師が作成するカルテは紙ベースで運用していました。診療時、現場(畜舎)では患畜の個体識別番号や診療した内容などをメモし、夕方以降で診療所に戻ってから、メモを元にカルテ作成を行うため、獣医師に大きな業務負担がかかっていました。特に、診療点数計算が別途必要だったため、大変だったと思います。
また、治療対象の家畜の特定やその家畜の加入状況などは、畜舎などに保管してある台帳などで照会し、特定・確認を行う必要があり、手間がかかっていました。
春田様:当組合ではグループ診療を基本としており、獣医師数は指定獣医師を含めて250名にも上ります。複数の獣医師で継続して診療を行う場合は、診療や投薬の履歴を把握するために連絡票を作成するなど、情報共有にも苦慮していたのです。
羽牟様:獣医師が作成した手書きのカルテを、当組合の業務職員が家畜共済の事故システムにデータを手入力する必要があり、ここでも時間と手間が生じていました。
手書きのカルテをOCRに読み込んでデータ化するという運用を行ったこともありましたが、当時のOCRは精度が低く、読み込み後のデータチェックが必要になるなど、逆に手間がかかる状況でもありました。
診療時だけでなく、その後の審査業務でも紙ベースでのアナログな運用がネックとなっていたといいます。
草野様:病傷審査には、形式審査と内容審査があります。形式審査は組合の業務職員が行い、内容審査は診療を担当した獣医師とは別の獣医師が行うのですが、審査担当の獣医師が診療担当の獣医師の診療所へ出向き、カルテを1枚ずつ見てチェックしていました。離島へ出向くこともあったため、移動時間もかなりかかっていました。
【導入】
「診療業務をシステム化して、効率化を図ろう」という構想が出てから、約3年をかけて電子カルテシステムが完成
アイネスでは、長年にわたって鹿児島県農業共済組合へシステムのトータルサポートを行ってきました。
平成17(2005)年に、共済組合の要望で電子カルテシステムの構想が挙がってから、アイネスのエンジニアも獣医師の診療現場に同行して、現状の把握や課題の洗い出しをすることから開発を始めました。鹿児島県農業共済組合から出された、実現したい内容や要望をアイネスがヒアリングし、具体的な仕様にまとめるという流れで、開発が進められました。
Q.電子カルテシステムの開発をスタートした経緯を教えてください。
羽牟様:このような課題を抱えていたことから、平成17(2005)年に、獣医師の診療事務や業務職員の共済事故事務の事務処理作業の負担を軽減すべく、「診療所のシステムを作ろう」という話が出たのがきっかけです。
当時、鹿児島県内に8つの組合がありました。肉牛・乳牛などの畜種の違いや肥育牛・繁殖牛などの飼養方法が異なり、各組合や地域によって色んな診断方法や治療方針がありました。各組合の獣医師を集めて検討会を行ったと聞いています。診療業務をいかに楽にするかという議題の中で、まずは電子カルテとなったそうです。
羽牟様:アイネスさんには、オフコンの時代からパソコンの時代を経て、現在に至るまで県下の農業共済団体システム全般の運用・保守・プログラム開発の支援協力をいただいていました。長期にわたり農業共済の事業システムの管理に携わっていただいていたので、システム自体の仕様のみならず、本組合職員が行っている事業運営や事務処理のほか、鹿児島県特有の業務の仕方まで細かく把握されていました。
そこで、アイネスさんと二人三脚で、当初から鹿児島県のオリジナルシステムとして電子カルテシステムを構想し、開発を進めました。
当時はまだクラウドも今ほど浸透していませんでしたが、タブレット端末やスマホ端末を活用して現場で入力でき、鹿児島県農業共済組合本所や診療所、獣医師の自宅など、どこからでもアクセスできるようにしたいと考え、思い切ってクラウド型を選択しました。
春田様:本格的に着手したのが平成18(2006)年頃で、具体的な仕様を決めてシステム設計に入ったのが翌年。平成20(2008)年4月にリリースし、運用を開始しました。
【成果】
獣医師・業務職員ともに業務の効率化と負担軽減を実現!
獣医師にとっては、カルテを作成・更新・参照したり、獣医師間で情報共有したりするのが容易になったことはもちろん、病傷審査においても診療担当獣医師の診療所に出向くことなく、システム上でチェックできるようになりました。
組合の業務職員にとっては、データの入力業務やカルテ点数計算業務がなくなり、病傷審査業務もシステム上で行えるようになり、大きな業務効率化につながりました。
Q.電子カルテシステムの導入・活用によって得られた成果・効果について教えてください。
草野様:カルテ入力業務や診療点数業務が効率化され、事務負担が軽減されました。カルテ入力は、現場でタブレット端末やスマホから行えるようになりましたし、診療点数の計算はシステムが自動で行ってくれます。治療対象個体の特定・確認や、過去のカルテの検索についても、現場からシステムにアクセスして、その場で行えるようになりました。
端末は、組合からも配布されていますが、獣医師個人が保有するスマホからもアクセス可能になっています。
診療内容のほか家畜の異動情報なども参照できるようになりました。
羽牟様:業務職員がそれまで行っていたデータ入力業務は、獣医師が入力した電子カルテデータを家畜システムで受信するだけで済むようになったため、処理に要する日数が大幅に削減されました。以前は、紙からデータへ入力する作業が発生していたので、入力作業とチェック作業が必要でしたし、入力ミスの修正作業も発生していました。
業務職員の業務量も年々増えているため、システム導入前後での工数を単純に比較することはできませんが、業務職員がデータ入力やカルテ点数計算業務をしなくて済むようになったり残業時間が短縮したりしているため、確実に業務効率化の効果は出ています。
病傷審査業務においても、システム上でチェックできる項目はシステムで自動化し、残された項目のみを人がチェックするようになったため、負担は軽減されましたね。
春田様:当初抱えていた課題の解消とは別に、獣医師の診断書入力も現場でタブレット端末やスマホ端末から診断書を作成できるようになりました。
また、電子カルテシステムに付随したシステムとして別途、在庫管理のシステムも開発してもらいました。この薬品の在庫管理についても、それまで台帳で管理していた薬品の入庫(購入)が、ショッピングモールで購入するようなかたちで発注できるようになったので、業務効率化につながっています。
羽牟様:共済金が支払われるまでには、診療カルテの作成、病傷審査、共済金支払い業務を経ます。電子カルテシステムと家畜共済事業システムとは別のシステムですが、電子カルテの入力データは共済事故処理とも深く関連があり、連携する重要性と有効性が大きいため、アイネスさんにデータ連携ツールを提供してもらい、連携を図っています。
また、診療の際に分かった家畜個体の出生、導入、譲渡、死亡などの異動情報は、次の診療対象となる患畜の情報更新に大きく役立ちます。このようにして、電子カルテシステムは単にカルテの作成にとどまらず、今もなお、農業共済事業に寄り添い、成長し続けてきています。
【展望】
データ連携している各システムのWeb化や、診療データの分析・活用を行いたい
電子カルテシステムや家畜共済事業における今後の展望
・過去の診療データを分析し、治療に対する効果の解析等に活用
・食品トレーサビリティへのデータ活用
Q.電子カルテシステムを活用した今後の展望などについて、教えてください。
草野様:獣医師としては、今後、過去の診療データの分析を行い、治療に対する効果の解析等に使用してみたいと考えています。たとえば、農場ごとに発生した傾向を確認し、それを予防するなどです。年々、組合獣医師としての業務が増える中で、獣医師数は増えていないという現状があります。このため、治療だけではなく予防にも力を入れていかなければなりません。
また、研究発表を行う機会もあるので、その際にもデータ活用していきたいですね。
羽牟様:電子化による業務効率化のきっかけは電子カルテシステムでしたが、家畜共済事業において、まだまだ電子化の余地が大きく、その部分が今後の課題です。
近年の畜産業を取り巻く関係業務は幅広く、国の政策など含めて、その活用性は大きいものと考えています。たとえば、食の安全に関して国際的にも肉牛の治療歴(投薬歴)が重要視されてきています。そうした意味では、今後電子カルテシステムは、入力された情報がいろんな分野で有効利用できるような総合的なシステムへの変貌が、まだまだ期待できると考えています。
【お問い合せ先】
今回、ご紹介しましたアイネスの「電子カルテシステム(家畜共済向け)」について、より詳しい内容をお知りになりたい方は、下記からお問い合わせください。
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